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AOKI YUTAKA

Photo by Eisuke Asaoka

青木裕 × MORRIE
-後編-

後編では、青木とMORRIEとの出逢いから訊いてみることにした。自身が高校生の頃にMORRIEに憧れていたことを話す青木の様子は、とても無邪気だった。屈託なく笑う青木の笑顔は、本当に飾りのない“素の青木裕の姿”に見えた。
取材・文:武市尚子

—MORRIEさんと青木さんの出逢いのきっかけは何だったんですか?

MORRIE : ベーシストのTOKIEをよく知っていて、彼女が青木くんとunkieというバンドを始めるっていうので、音源を貰ったんだよね、。何年だったっけ?

青木 : 2006年くらいだったかな?

MORRIE : 2006年か。ちょうどその頃、僕も復活して日本に帰って来ていて、その音源を聴かせてもらったんだけど、とにかくギターがカッコイイなと思ったんだよ。その時は、まだdownyも知らなかったからね。アメリカに行ってしまってから、90年代中頃から2000年の中頃までの日本の音楽シーンのことは、まったく知らなくて。それで、unkieの音源を聴いて初めて青木くんの存在を知って。それから何度かライヴを観に行かせてもらってね。

青木 : そうでしたね。何回か来て下さいましたよね。3回以上は来てくれてました。

MORRIE : unkieはすごくロックなインストバンドなのに、downyを聴いたらまた全然違う音でビックリしたんだけど。僕はunkieから入っているからソリッドなイメージがあって。unkieは感性のおもむくままにやってる感じがあって、downyはもっと構築されている感じを受けたかな。

—unkieが出逢いのきっかけだったんですね。

MORRIE : そう。そこが出逢いのきっかけではあったんだけど、2012年に僕が20年ぶりにソロを始めることになったときに、ギターは青木くんしかいないって最初に決めてたんだよ。それでunkieのライヴに行って、楽屋で“青木くん、久々にソロやるから、ギター弾いてくれへん?”ってお願いしたの。

青木 : そうでしたね。懐かしいな。もぉそれは大変でしたね。僕、ずっとファンで、学生時代『ロッキンf』を読んでましたから。部屋に『ロッキンf』が積上ってましたからね(笑)。

—あははは。分かります分かります。私も同世代なんで(笑)。私なんて定期購読してましたからね(笑)。洋楽の『BURRN!』もよく読んでたなぁ。

青木 : うんうん、『BURRN!』ね。『BURRN! JAPAN』は『ロッキンf』よりちょっと後だったかな。とにかくあの頃、『ロッキンf』でしたもんね、世代的に(笑)。だから、僕からしたらMORRIEさんなんてもう神様でしたから。茨城だったから、そんなに音源も売ってなかったし、家にあった再生用の機材が壊れていて『ロッキンf』に付録で付いていたソノシートも聴けなくて、最初にMORRIEさんの声を聴いたのは深夜のラジオで曲が流れたときだったんです! もぉ、そのときは体が震えてきて。

MORRIE : あははは。そうなん(笑)?

青木 : そうだったんですよ! “これがMORRIEかぁ!”って、感動して。あ、呼び捨ててすみません(笑)!

—いや、呼び捨てはファンの特権ですから(笑)。

MORRIE : あははは。何のラジオやろ?

青木 : なんでしょうね? でも、海外でのエピソード、財布をなくした話を話していらっしゃいましたよ。

MORRIE : よく覚えてるなぁ、ほんまに(笑)。1stアルバムの直後あたりかな? いつやろ? 何が流れたんやろ? 「SPIDER IN THE BRAIN」?

青木 : あ、そうです! 「SPIDER IN THE BRAIN」! そのときにMORRIEさんが話してたこと、全部覚えてますよ、僕。財布をなくした話をしてたときも、“後ろのポケットのテンションが違う”って言ってて。“テンションが違うってなんだ!? すげぇ! カッコイイ!”ってなったの覚えてますもん。僕、その頃、ズーズー弁(茨城の方言)丸出しだったんで、“テンソンがつがうって、なぬ〜〜っ!?”って興奮しましたもん(笑)。それから、あらゆるとこで、“テンションが違う”って使ってましたもん! それくらい神様でしたから! それくらい憧れが強かったです。

MORRIE : なにそれ(笑)。へぇ〜。そうなんや。でも、その話されてちょっと思い出した。でも、ほんとよく覚えてるなぁ。まぁでも、世代的にギタリストに憧れてた時代だったのでは。

青木 : いや、僕、ギターなんですけど、ギターヒーロー好きではないんですよ(笑)。例えば、ヴァン・ヘイレンだったら、デイヴィッド・リー・ロスとか、そのバンドの象徴というかでしたからね、DEAD ENDも大好きだったんですけど、僕のヒーローはMORRIEさんだったんですよ。

MORRIE : そうなん(笑)? 珍しいな、ギタリストなのに。

青木 : 珍しいですよね(笑)。僕はギタリストだからギタリストが好き! っていう感覚はあんまりなかったんですよね、不思議と。

MORRIE : 自分の中のギターヒーローとかいなかったの? 速弾きとか真似したりするんちゃうん?

青木 : いや、たしかに、しょっちゅう好きなバンドの速弾きのギターとかコピーして友達に聴かせて優越感に浸ってましたけど(笑)、ギターヒーローってものは自分の中には居なかったですね。学生時代、周りはみんなBOØWYに憧れてましたからね。僕もコピーしてましたしね。

MORRIE : そうなんやね。でも、そんなこと言いながらも、青木くん速弾きにはめちゃくちゃこだわりを持ってるからね。

青木 : いやいやいや(笑)。こだわりとかではなく、ソロで弾くということしかやったことがなかったんですよ。

MORRIE : そうやったんや。

Photo by Eisuke Asaoka

—青木さんは、DEAD ENDはどういうところに惹かれたんですか?

青木 : 心を埋める存在でしたね。

MORRIE : 何年くらいの話?

青木 : 1986年くらいじゃないですかね? 僕、高校生でしたから。

MORRIE : その頃ある意味音楽が多様化してて、メタルもあるし、パンクもあるし、ニューウェーヴもあるしっていう時代だったね。明確にジャンル分けされてた時代だったというか。僕はどれもまんべんなく聴くタイプだったけど。

—よくレコードあさりましたよ。。

青木 : レコードね(笑)。

—青木さんが上京したのは?

青木 : 僕は、18歳で上京したんですけど、でも、ギターで目指す自分の世界が東京にはないなと思って、早々に諦めちゃったんです。むいてないなって思っちゃったというか。それで、結局諦めて会社員になっちゃったんです。

—そうなんですか?

青木 : そう。29歳で辞表を出すまでは、ずっと会社員してましたからね。ギタリストとして本格的にやり始めたのは30歳のときからですから。絵も30歳の頃からなんです。それまでは、本当にだら〜っと、夢のない毎日を送っていたんです。でも、downyのメンバーであるロビンと出逢ってから、手応えを感じて、辞表を出したんです。

MORRIE : じゃあ会社に居た頃から出逢いはあったのね。

青木 : そうですね。まだその時点ではドラムとか決まってなかったんですけど、いけるなって思ったんで。でも、29歳っていう年齢的に、会社の中でもなんとなく地位的なものもありましたし、後輩もたくさん居ましたし、親のこともあるし、29歳から会社辞めて音楽やっていくって、周りからしたら、何言い出したんだ? って呆れられてたっていう状態で。会社の人達にもすごく反対されたんですけどね。

MORRIE : でも、18の頃に上京した頃もギターはやってたんでしょう?

青木 : やっていたんですけど、本当にソロでしか弾いたことがなかったから、ドラムに合せて弾くとか、やったことなかったんですよ。downyの最初の頃の僕は本当に酷かったですからね(笑)。クリック鳴ってても、“ん? なんか鳴ってます!”みたいな感じだったし(笑)。

MORRIE : downyでデビューなん?

青木 : そうです。2001年に。

MORRIE : downyはいつまでだっけ?

青木 : 4年くらいしかやってないと思います。そこから9年くらい活動休止してしまうので。活動休止中は、いろいろなバンドのサポートをしてたり、unkieをやったりしたんですよね。そこでMORRIEさんとの出逢いもあって。最初は録音機材の知識もなかったんですけど、その頃からいろんな機材を知るようになったのと、いろんな出逢いもあって、いつか自分のソロアルバムを残したいなっていう気持ちが芽生えていったんです。

MORRIE : 『Lost in Forest』は、その頃からなんとなく青木くんの頭の中にはあったと。

青木 : ありましたね。構想10年ってとこですね。想像は出来ていても、具現化できないという自分がいて。本当にやっと具現化できたって感じでしたね。まず、最初は、発売を予定していなかったですからね(笑)。MORRIEさんに参加して下さいってお願いしたときも、“発売もなにも決まっていないんですけど、やってもらえますか?”ってお願いしたんですよね。

MORRIE : 発売は2017年だったけど、レコーディングしたのは、もう2年くらい前の話だもんね。

青木 : そうなんです。再構築することを、セッションとして楽しんでしまっているんで(笑)。DIR EN GREYの 薫にも参加してもらったんですけど、もう何弾いたか忘れてましたもん(笑)。

—私も、締め切りというものがないと、原稿を書き上げられないと思うんですよ。延々と書き続けてしまうというか。書いては消し、書いては消しみたいな。まさに、再構築し続けてしまうと思う。

青木 : 僕もそういうのもありますよ。締め切りありきで書く曲とかもあるにはあるんですけどね。でも、ソロはまったくそうではなかったですね。

Photo by Eisuke Asaoka

MORRIE : 青木くんは絵も描くけれども、あれは依頼されて描くこともあるの?

青木 : 依頼されて描くとなると、すごく大変ですね。すごく面倒くさいというか、はかどらないですね。でも、『Lost in Forest』は、音楽も絵も自分の中から出てくるものなんで、何の苦労もないんです。

MORRIE : 『Lost in Forest』のジャケットの絵も青木くんが描いたんだよね。

青木 : そうなんです。

—青木さんの描く絵は、すごく真相を見抜いているみたいで、すごく怖くなるというか。

MORRIE : 本当にそう。うちのソロのバンドメンバーも、青木くんに自分の似顔絵を描いてくれって頼んで描いてもらったりしてたけど、僕はそんなん絶対頼まないわと思ったから(笑)。あのね、僕から見たら、あの絵の中には、恐らく彼らの知らない彼らが浮き出てたんですよ。

青木 : あははは。そう言ってらっしゃいましたね(笑)。その言葉を聞いて、MORRIEさんっぽいなって思いました(笑)。

MORRIE : みんな、“うわぁ〜! 写真みたい!”って喜んでたけど、いやいや、これ恐ろしいことを頼んでるってこと分かってないやろ? って思いながら横で見てたんだけどね(笑)。君の知らない君の本質がここには描かれてるからね! って。で、青木くんに“MORRIEさんも描きましょうか?”って言われたんだけど、絶対に描いてほしくなかった(笑)。

青木 : あははは。面白い(笑)。

—青木さん、実際に見えるんですか? その人の本質。

青木 : ないけど、MORRIEさんにそう言われてから、あぁ、じゃあ見えてるんだな、きっとって思っちゃいましたね。きっと無意識ながら、見えてるんでしょうね(笑)。

—青木さん、絵は独学ですか?

青木 : あれを学習したって言ったらなんか、ちょっと恥ずかしいです。

—何をおっしゃいます! さっき、MORRIEさんが青木さんのギターは感性そのものだとおっしゃってましたけど、絵もそうなんですよね。パーツがどうとか、絵の原理とか、そういう理屈的なところじゃなくて。本当にすごく引き込まれるんです。才能を超えてる感じ。

MORRIE : そう。“お勉強”じゃないねん。魂の質そのものが違うというか、“絵を描く”っていう目的ではないんですよ。

青木 : そうですね。きっとそうなんだと思います。

MORRIE : そこが目的じゃないからね。本当に魂そのものを如何に形にするかという。青木くん、『Lost in Forest』のジャケットの絵は自画像なの?

青木 : そう、ある意味自分かなと。森の中で迷ってどうしらいいか分からなくなってる自分です(笑)。

MORRIE : どうして『Lost in Forest』なの? それはどこからきてるの? 最初にそこがあったのか、それとも、作ってる中で、そういう感じになってきたの?

青木 : 僕の人生をいろいろと振り返ると、迷子だったなって思うんです。自分の中に、“森”っていうキーワードがあって。ずっと森の中に居たみたいだなって。ずっと迷子みたいな人生だなって。

MORRIE : 迷子になるにしても、山とか海とか街とか、いろんな場所があると思うけど、どうして森だったんだろう?

青木 : ずっと暗かったっていうか。小学校の頃は、とにかくイジメで苦しんでいたし、常に死を意識するような子供だったんです。よく、1人で森に行ってたんです。それで、よく山犬においかけられたりしてました(笑)。

—MORRIEさんも絵を見られるのお好きなんですよね。

MORRIE : 絵はよく観に行くね。こう見えても小学校の頃、よく絵の展覧会に入選してたんですよ。4、5年生の頃、漫画家になりたいと思ってたときもあったしね。たぶん、今でも『仮面ライダー』とか『人造人間キカイダー』とか『デビルマン』とか、今でも書けるんじゃないかな? 昔は、レコーディングの待ち時間とかに適当に描いたりしてたね。みんなに不気味がられてたけど(笑)。

青木 : そうなんですね(笑)! 僕も漫画家になりたいって思ってたことありましたよ! 小学生の頃(笑)。

—しかし、青木さんの絵のタッチは素晴しいですよね。まさしく、感性そのものだと思います。

青木 : 『Lost in Forest』のジャケットの絵とかは、自分の中から出て来たものなので、何の苦労もなく描けているんですけど、商業的な絵は本当に苦労するんです。それは音楽も同じで、ソロに関しては、呼吸するように生まれてくるんですけど、downyだったり、サポートギターとしてレコーディングするときは、自分であることの意味との間ですごく苦しみますね。サポートに関して言えば、僕を指名してくれたからには、僕らしさを活かしてこそ意味があるんだろうと思うんで、何を求められているのかをすごく考えるし。そこがすごく難しいし、苦しみますね。downyはそこまでではないですけどね。でも、バンドの人数分の1になるんで、そこはまたソロとは違う感覚ですからね。ソロは本当に自分の思ったままの形ですから。そう思うと、やはり、社会で生きるのは得意じゃないんだろうなって思っちゃいますよね(笑)。ソロは本当に自由でしたね。

MORRIE : 『Lost in Forest』は、その音を元にしてそこから映画にしたらいいのにって思ったよ。

青木 : すごく興味はありますけどね。

Photo by Eisuke Asaoka

MORRIE : 青木くんは、いまだに森の中で迷っているの?

青木 : そうですね。なんかそこに居るのが心地いいんです。

MORRIE : 迷いつつも目指すところはある?

青木 : ソロアルバムを作るということが、自分のゴールでもあったんですけど、今は、次の作品を作ろうと思っているので、『Lost in Forest』というよりは、もう森の住人なんでしょうね(笑)。

MORRIE : じゃあ、物語化していかないとね。

青木 : 次はみなさんを森に招き入れる感じですかね。

MORRIE : この世の命あるかぎり、いい音楽を作り続けないと。

青木 : そうなんですよ。早く2枚目作りたいんですよね。今、新しい機材の購入の予定があって、それを考えてると楽しくてしかたないんです。めちゃめちゃ生き生きしてます(笑)。

MORRIE : 永遠に生きると考えたら、人間というのはすごく退屈になると思うよ。

青木 : 本当にそう。本当にそう思いますよ。

MORRIE : 人類は不老不死の薬を発明しようとしたり、本気で錬金術とかやろうとしてるけど、絶対に退屈だと思う。死ぬということは、僕的にはこの世の区切りでしかないんだけど、死があるからこそ人生は輝くのよ。終わりがあるからこそね。終わりがなかったら絶対に心の底からの充実はないだろうし、真の意味で輝けないと思うからね。

青木 : 本当にそうですよね。本当に今、それを切実に感じています。

—その考え方の変化によって、生まれてくる楽曲にも変化を感じたりします?

青木 : 病気の告知を受けてから、“こういう世界だったんだ”っていうことを知ったというか。自分が世の中というものに、まったく目を向けずに生きていたんだなって知ったんです。今が1番充実しているんです。

MORRIE : “こういう世界だったんだ”っていうことを知ったって、いうのは、どういうこと?

青木 : 世の中のすべてを楽しいと感じられるんです。僕が目にするすべてを、美しいと感じられているんです。

MORRIE : Twitterにも書いてたね。ずっと青空を見てるって。

青木 : そうなんです。何もかもが新鮮に映るんです。空を見るだけで気持ちが安らぐ、なんてこと今までありませんでしたから。まるで生まれ変わったような気持ちです。

MORRIE : この世の終わりを知ると輝くんです。そういうもんなんですよ、人生って。人間って。逆説的な意味でね。

青木 : 本当にそのとおりなんです。僕も医師からの宣告がなければ気付かなかったと思うんですよね。ものすごく自分の人生に感謝したし、何も動揺しなかったし。楽しいですよ。

MORRIE : だから僕がよく言うでしょ。自分が自分である、この〈自分〉と、〈今ここ〉しかないって。存在が存在するということ。全部同じこと。同じことを全部違う、様相で、違う角度から言ってるだけのことであって、感覚の原点は一緒でさ。〈今ここ〉しかないんですよ。その驚愕の奇跡。今、青木くんは永遠を発見してるんですよ。だから光り輝いてるんですよ。それこそが永遠になるんです。

青木 : 僕も分からなかったですよ。自分がこんな心境になれるなんて思ってもなかったし。

MORRIE : 難しいところだけどね。宇宙の存在に価値がないのと同じで、命自体に価値はないからね。そうすると、生きることに価値なんてないし、意味なんてない。ただ、やっぱり、どう生きてどう死ぬかじゃないの。現世という区切りでいえばね。命が大切っていうけど、どう大切なのか? って話で、やっぱりそこは、どう生きてどう死ぬかだと思うけどね。そこで自分が満足できればそれでいいのではないか。本当にそれだけのこと。

青木 : 本当にそう思いますね。本当にそのとおりだと思いますよ。

MORRIE : 幸せって、その人の心の問題だからね。その人の心の状態。充実しているかしていないかの問題でしょう。与えられるものが外にあって、その何かを得るというようなものではない。自分から、自ずとなるものだからね。僕がいつも、“いつ死んでもいい”って言うのは、常に〈今ここ〉として、幸せだから。

青木 : すごく分かります。本当にそうなんですよね。

MORRIE : 幸せな人は、自殺しようがどうしようが本当に幸せだからね。不幸せを追い求めることは出来ないでしょ。人生の目的として、“幸せになりたい”というのは、もう設定されてあるんだから。“幸せ”という言葉がある限りね。“幸せの刑”に処せられているんだから。それを知るのは、青木くんのように病気がきっかけになる人もいるだろうし、僕のように、ある日突然直感する人もいるだろうし、いろいろだと思うけどね。これは自ずとなる心の状態だから。“幸せになるために!”って、外部に何かを求めていろいろとやってるってことは、もうそれ自体が、自分が不幸だっていうのを物語ってるんだから。

青木 : たしかに(笑)。

MORRIE : 完全に根本を変えないと。それは人によって違うと思うけどね。どう幸せを思うかは。地位とか名誉とかお金とかっていう、この世の価値観に縛られている限り、不幸にしかならないと思うよ。まぁ、そこに幸せを感じる人はそれでいいのかもしれないけど。でも、よく聞くでしょう、地位も名誉も手に入れた人って、得てして実は不幸せだったりする。そんなところに幸せの真意なんてものはないんですよ。自ずからなるもんなんですよ、幸せってものは。

青木 : たしかに。そう思いますよ。お金はあの世には持ってはいけないですからね。大切な物はいっぱいありますけど、割り切れた今、清々しいもんですよ、本当に。気付けて良かったなって思うんです。すごく自分の人生が有意義なものになったんで。

MORRIE : 僕ね、今の青木くんのこと、ある意味すごく羨ましいと思うねん。こんな言い方したら不謹慎なのかもしれないけど、ごめんね。でも、本当にそう思うんだよ。誤解しないでね、死にたいと思っているわけではないし。

青木 : いや、大丈夫ですよ、全部理解してます。そのMORRIEさんの気持ちすごく分かりますよ。そういった感覚でみなさんと話せたらと思います。病気のことを僕に告げてくれた先生も、すごく深刻な感じだったんだけど、僕がすごくサラッと受けとめたんで、ちょっと戸惑っていたというか、テンション感がまったく違うから、話が噛み合なくて(笑)。

MORRIE : ある意味、天の思し召しみたいなとこだからね。

青木 : そうなんですよ、本当に。いろいろすっ飛ばして幸せになれたんですよ、気持ちが。それって、そういうことなんですよね。

MORRIE : もちろん、ネガティヴに受け取ってしまう人もいるだろうけど。

青木 : 僕はこの人生を本当に幸せだと感じましたからね。病気になったことがラッキーとか幸せとかではなく、この、今、幸せだと感じられている、この感情に出逢えたことが幸せだったなって思えるんです。すごく嬉しいんです。この生き方に出逢えたことに、すごく感謝しているんです。ネガティヴな発表だとは受け取ってほしくなくて。すごく前向きなものだと受け取ってほしいんです。

MORRIE : そうやね。ここで話していることはもう、それぞれの気づきでしかないからね。

青木 : 僕で言えば、『Lost in Forest』というのは、自分のゴールだと思うくらいの気持ちで向き合った作品だったんですけど、それを終えたことによって、発症した病気でもあったので、何かそういう先を考えないくらいのエネルギーを詰め込んだ行動が、答えを導き出してくれたのかなって思っているんです。結果論でしかないんですけどね。ちょっと見方をかえたら、このソロアルバムを無事に作り終えて、ソロライヴが成功したら、自分は死んでもいいっていう想いを、すごく強く描いていたので、そう考えると、その強い思考が具現化させる力となったのかな? と思うんです。強く願えば叶うというのは、まんざら嘘ではないんじゃないかなと。だから、今は、その後をイメージするようにシフトチェンジしたんですけど。それがすごく力をおびて来て、その力を信じ始めている感じなんです。

—強く願った想いが叶えた答えが今なのだったとしたら、また強く願う別の気持ちを持てば、その強い気持ちが叶える奇跡は起こるかもしれない。そうですよね?

青木 : そうですね。でも、なんとなく知ったのは、強い思考というのは、良いものも悪いものも区別がつくことなく現実化するんじゃないかなって。

MORRIE : そう。善も悪もないからね。善も悪もこの世の観念だから。そこの条件として、青木裕としてやりたいことがあったっていうことだからね。僕もそうだけど、青木くんも音楽というものがあるから。そこの探究なんですよ。本当にそういう意味でも、〈存在〉と〈私〉の探究ですよ。この秘密。これが最大の楽しみなんですよ。

青木 : 本当にそのとおりですね。さっき、MORRIEさんもおっしゃいましたけど、どう生きてどう死ぬかだと思いますよ。そこで自分が満足できればそれでいいじゃん。本当にそれだけのことだと思いますね。本当にそのとおりだと思います。この対談も、ネガティヴなものではなく、すごく前向きなメッセージとして受け取ってもらえたらなと思っています。

Photo by Eisuke Asaoka

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