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world’s end girlfriend(以下weg)の音楽とは、毒と悪意にまみれたファンタジックな物語を、エイフェックス・ツインとシガー・ロスと ディズニー音楽とを一緒くたにしたような手法で表したもの、とでもいえばいいだろうか。電子音と効果音とエディットと生楽器を自在に操り、 美しくドリーミーなものと醜くダーティーなものを同時に表したような圧倒的世界観は、国内外含め極めて希有な音楽といえる。 このアルバム『Hurtbreak Wonderland』は、weg 名義としては約2年ぶりの5枚目(他に別名義1枚、コラボ作品1枚あり)にあたり、 またレーベル移籍第一弾となる作品である。
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そもそもweg の音楽は、彼の脳内にあるイメージを音として具現化する、という成り立ちがあるため、電子音にも生楽器にもこだわっているわけではなく、 作品ごとに変化してきたのも当然のことだった。いわゆるエレクトロニカ・アーティストやトラック・メイカーとは根本的に異なり、いわば“音を使った 物語作家”なのである。1〜2枚目はエレクトロニクス中心の作品が続き、3枚目『Dream’s End Come True』(02 年)で破壊的エレクトロニカと弦楽器の 美しい響きとを融合させた壮大な音世界を作り上げ、独自の作風を確立する。それが次の『The Lie Lay Land』(05 年)では電子音やエディットの要素が大きく 後退し、生演奏のダイナミズムを全面的に強調。
さらに現在のレーベル・メイトであるMONO とのコラボレーション・アルバム『Palmless Prayer / Mass Murder Refrain』(05 年)に至っては、 電子音の類が皆無になり、バンド・サウンドに弦楽器などを加えてひとつの世界を表してみせた。コラボ作とはいえ、彼の生音指向がひとつの極みに 達した作品だったといえるだろう。
今回の『Hurtbreak Wonderland』は、コラボ作『Palmless Prayer〜』にともなう05 年秋のヨーロッパ・ツアー終了後すぐさま着手し、06 年のほとんどを 制作に費やしたという。このコラボでの経験が彼に与えた影響はことのほか大きく、「(コラボ制作前に)アウシュヴィッツに行った頃から、自分の中で 憑きものが取れた感があって、そこで方向を変えられたところがあった」(weg、以下の発言はすべて彼によるもの)と言っていて、 ひとつのターニング・ポイントになったようだ。では“憑きものが取れた”ことから、彼の作風はいかに変わったか。本作はまず、これまでの作品に色濃く あった終末へと向かうムードや、落差が激しく大仰でドラマチックな曲展開というものが激減し、代わりにフラットに近い、ほのかに陽性でポジティヴな匂いが 目立っている。聴きやすい、とさえいえる。「以前は終わりに突き進んでいく感じが好きだったけど、今は命とかが流れていく上で生じる”抵抗する何か”に すごく惹かれているところがあって。そこに美を感じたりとか。それが、今自分の中で表現したいものの中心にきている」彼の言う“抵抗する何か”とは 言い換えれば“生命力”であり、それがアルバムのテーマといえるものになった。といっても本作は強烈にパワフルな作品というわけではない。 「たとえば岡本太郎はすごく生命力があるけど、俺のやりたい生命力の出し方は、ああいうバーンと強さの出た表現とはちょっと違う」とも彼は言っていて、 それは過剰さや過激さではなく、フラットなところで生命力を表現するということだ。たとえば「誕生日抵抗日」の穏やかな管楽器の響きだったり、 「シャンデリアの下の馬の幽霊」のハープやストリングスによる美しいメロディーだったり、「8重人格と11 羽のカラス」のサックス・ソロのとても やさしい音色だったり。音そのものが活き活きとしていて説得力があり、つまりは表面的ではなく、深いところでの表現力が増しているのだ。また、 電子音と生音のバランスというところでも変化が見られる。前述したように近作では生音指向が強まっていたが、本作では、かつて彼が得意としていた エレクトロニカ的電子音やエイフェックス的エディットの頻度が再び増えていて、管楽器や弦楽器など生音との比率はほぼ半々になった。 特にリズムは打ち込みを多用し、要所でドラムン・ベースのパターンを使っていて、ダンス・ミュージック的な躍動感を聴き手に印象づける。 「タイトルの“Wonderland”って言葉には、自分の中では、なにかしらの楽しさも含まれているから。バーッと盛り上がる感じを自分でやろうとすると、 ドラムン・ベースみたいになっちゃったりする(笑)。それが生ドラムだとシリアスになっちゃう」と彼は言い、これもまたポジティヴ指向と結びつく。 さらにもうひとつ、本作の曲のタイトルが、初めて全曲日本語と英語との併記になっているのも、変化を示すものだ。これまではすべて英語のみの表記だった。 「以前から日本語のタイトルはやりたかったんだけど、日本語だと直接的で、聴き手が固まったイメージをしやすいから使わなかった。 だけど今回は、weg の方向とか世界観を、なんとなくわかってきてる人もいるだろうから、そろそろ日本語を付けても大丈夫かなって思って。 多少危険を冒してもやった方がいいかなってのもあったし」
彼の言葉の端々から、さまざまな“縛り”から解き放たれ、オープンになってきているのが感じられる。過剰ではない平易な部分での力強さ、 電子音やエディットの復活、日本語タイトル…。総じて言えば本作は、これまで彼が試みてきたこと、試みようとしてもできなかったことを、 なんの縛りもなくつぎ込んだ作品といえる。それはデビュー以来6年間の集大成であり、ひとまわりした結果、より深い表現に到達したということだろう。 「うん、ひとまわりしていると思いますね。けっこう俺、若い頃から、6年単位で一周みたいな考えがあったから。今回のアルバムでまた始まる、 というような感じがあったんですよね、意識しなくても」つまるところ『Hurtbreak Wonderland』は、原点に立ち返ると同時に、 weg にとっての“第二章”への突入を告げるアルバムである。彼自身、作風だけでなく姿勢そのものもオープンになってきているようで、 レーベル移籍によって海外へのアクションが可能になったことについても「必要としている人のところに届くことを、俺は一番望んでいるから。 まだアメリカやヨーロッパでは出していないけど、たぶん必要としている人がいると思うから。そこはやっていかないと」と言っている。weg は今、 間違いなく新たな季節を迎えようとしているのだ。
2007 年1月 音楽ライター/小山 守
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