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AOKI YUTAKA

イラスト/ 青木裕 × 寺田克也

青木裕×寺田克也
『Lost in Forest』特設ホームページ開設記念
〈創作すること、生きていくこと〉
-前編-

2017年1月、制作期間10年のギター・インストアルバム『Lost in Forest』をリリースした青木裕(AOKI YUTAKA)。ジャケットも含めて青木が手がけたコンセプチュアルな作品だが、青木の絵に惹かれ、そしてその音楽にも衝撃を受けたと語るのがマンガ家・イラストレーターの寺田克也だ。今回はホームページ開設記念として寺田氏を迎え、前後編で濃密な対談をお届けする。まず前編では、その出会いから創作における立ち位置まで語り合ってもらった。
(取材・構成 森樹)

青木くんの絵は、二足のわらじにしてはうますぎる(寺田)
寺田さんは、夢を諦めさせるに十分な存在でした(青木)

青木 : 寺田さんは、僕が参加する音源の感想を毎回送ってくださるんです。中でも、今回のソロは熱くて(笑)。

寺田 : 本当(笑)?

――出会いとしては漫画家のカネコアツシさんの紹介ということで。

寺田 : そうですね。カネコくん繋がりで。青木くんのライブは一回しか行けてないけど。

青木 : 来てくれて嬉しかったです。

寺田 : カッコいいから。音楽に詳しくないのでカッコいいとしかオレにはわからないから。

――ミュージシャンから音楽送られてくるようなことはよくあるのでしょうか?

寺田 : ないない。オレに送ったって仕方ないじゃん(笑)。聴いているだけだから。

青木 : でも感想メールは嬉しいですよ。

寺田 : ご挨拶はしておかないと。でも、響かなかったら何もしないかなー。何様なんだって話だけど(笑)。じつは、最初は音を聴いてなくて、まず絵を見せられたんですよ。それがバカうまだったから、これはむしろ音楽辞めた方がいいんじゃないかと(笑)。

青木 : (笑)。でも、僕が一旦、絵を諦めたのは寺田さんの存在も大きいですよ。

寺田 : そんなことないでしょ!二足のわらじにしてはうますぎる。あんまりこういう人はいないんですよ。だから音も聴いてみたいなと。そしたらギターもすごいし、意味がわからない(笑)。そういう順番なんです。

――絵の印象が鮮烈だったんですね。

寺田 : モノを作るというところで、一番わかるのは同じ絵の分野だから。まぁまぁうまい人というのはけっこういるんです。余技としてうまいとかね。そういう感じじゃないのでおかしいなと。それで気になる感じになりました。絵から入っているので。

――ソロ・アルバムのジャケットイラストを見ても、二足のわらじでやっている感じはしなかったと。

寺田 : 絵としての力があるから、すごいことですよ。多分何をやってもうまいんじゃない?

青木 : ソロ・アルバムに関しては、ミュージシャン仲間から「この作り込みはおかしい」と言われました(笑)。

寺田 : 今自慢したなー! でもどっちもすごいっていうのはあまりないから。二足のわらじという意味では、オレは麻婆豆腐しか作れない(笑)。

青木 : はははは! 僕は敢えて料理には手を出さないんです。こだわってしまうのがわかっているので、それだけに集中してしまうのが怖くて。勉強しないようにしてます。

――元々、青木さんが絵を描くきっかけって何だったんですか?

青木 : 幼い頃から好きだったし、絵を描くことは生活の一部でした。ごく自然な行為。誰かに影響されたとかでもないです。

寺田 : 大体、絵の道に入る人はそうだよね。

青木 : ネットもなかったし、書店も少ない田舎に育ったんで情報が少なかったんですよね。18歳で上京して、寺田さんや大友克洋さんの凄さを改めて知るんです。そこからメビウス(※フランスの漫画家)に行き着いたり、竹谷さん(造形作家の竹谷隆之氏。寺田氏とは専門学校時代の同級生)にも驚かされたりとか。好きな傾向は統一されていて。

寺田 : 確かに同じようなものが好きだよね。

青木 : 行く先々で、寺田さんが魔物のように立ちはだかるわけです(笑)。

寺田 : そんなバカな(笑)。

青木 : 夢を諦めさせるのには十分な存在でしたよ。そんな寺田さんは今、僕の絵をiPadで拡大して見てるわけです……怖いですよ(笑)。

絵を完成させる面倒なプロセスの中で得ることは確かにある(青木)
自分が面白がれればそれでいい。一番目の読者としてね(寺田)

寺田 : 使っているソフトはPhotoshopだっけ?

青木 : 寺田さんにPainterを勧められたんですけど、全然使い方がわからなくて。結局安価なお絵かきソフトを使って、そのあとに微調整のためにPhotoshopに移行する感じです。他の人に聞くと、相当面倒くさいやり方らしいですね。下描きは鉛筆とボールペンを使っているんですけど、スキャナーを持ってないので、iPhoneで撮影した写真をPCに取り込んで(笑)。歪んだところはそこから直したり描き足したりしています。

寺田 : でもみんな、そんなもんなんじゃないの? やり方は何でもいいから。ゴールがあって、そこに行き着くまでの道っていくらでもあるわけで、別に最短距離の一本道で行く必要はない。その過程がまた絵になっていくってことだよね。

青木 : 絵を完成させるまでの面倒なプロセスの中で得ることは確かにあると思います。

寺田 : 絶対そうだよ。それが自分のタッチになっていったりするじゃん。あとから付け足そうと考えるとそれは意図的なものになるけど、絵が完成するまでの過程で選んだ道が自分の味になっていくのは絶対にある。だから、手段はどうでもいいよね。

――青木さんもゴールは見えながら描いているんですよね?

青木 : 頭には浮かびますね。それに向けて描いていて。

――手段ということでは、寺田さんは取り組む作品によって画材を変えることはあるのでしょうか?

寺田 : うーん、明確ではないけれど、なんとなくその画材をモチーフから選ぶところはあります。逆の場合もあって、画材が絵を選んでいくみたいなものもある。あんまり意識的にやっているわけでもなくて。自分が一番おもしろいと思っている画材がやっぱり最高なんですよ。それが今、iPadProとapple pencilだったりだとか。

――自分が面白いものを使うことが大事だと。

寺田 : オレは勉強なんかしてないって思っているけど、絵を描いているだけで他人からは勉強に見えたりする。四六時中、iPadProに触っているからなあ。本人は面白いからやってるだけで、それが結局、最強じゃないかな。

青木 : それに尽きると思います。好きであることが重要ですよ。

――興味のまま突っ走って、発表まで行き着くのが強いということですか。

寺田 : 発表っていうのもじつはそんなに大事じゃない。描くってことは人に見てもらいたいってことだから、そういう意味では発表に繋がるかもしれないけれど、自分が面白がれればそれでいい。一番目の読者としてね。自分が喜ばないものを作っていても他人には喜ばれないから。んで、そこを突き詰めていくと、結果的には発表していくことになるという。

――青木さんのソロ・アルバムも完成までけっこう時間がかかったみたいですが……。

青木 : ソロの音源は、そもそも発表を目標としていなかったので。だけど自然と曲が増えていって、結果的に聴かせたいなとなった感じですね。

――10年くらいかかったと。

寺田 : そんなに?

青木 : おぼろげな構想期間を含めてですけどね。制作作業自体は3~4年です。おぼろげと言ってもぼんやりしていたわけではないです(笑)。

寺田克也氏の自宅にて

意識的にどう無闇に描いていくかが最近のテーマ(寺田)
昔は窮屈に感じることもありました、絵にしても音楽にしても(青木)

――話は戻りますが、そもそも青木さんに送られてきた寺田さんからの感想メールはどのような内容だったのですか?

青木 : 「ウッス!アルバムいいね~」といった気軽な感じのメールでした(笑)。バンドもいいけどソロが好み、とあって嬉しかったです。そこにはソロ音源を再生するiTunesの写真まで添付されていて(笑)。ところで、今もそうですけど、寺田さんってどこでも隙あらば絵を描いていますよね。

寺田 : 暇だからね(笑)。

青木 : 前回も、寺田さんに会いに来た人たちを前に、ずっと描き続けてましたよね。みんな寺田さんと話をしたいのに(笑)。

寺田 : でも最近はサボってばっかり。集中力が落ちてきちゃって。描いても描いても、描いてない感じしてる。

青木 : 描いてるじゃないですか(笑)。

寺田 : 依頼されたイラストはやるけど、無闇に描く量は減ったね。それを意識的にどう無闇に描いていくか、というのが最近のテーマになりつつある。

青木 : 僕も音楽に置き換えたらそうかもしれないです。新しい録音機材を導入したときはテンションがあがってずっと曲を作っていたんです。音を構築する面白さに酔ってましたね。でも今は、頼まれない限りはやらないです(笑)。

寺田 : そうなるよね。やっぱり、自分から出て来るものってたかが知れているので。だんだん繰り返しになっていって、時間がかかっていく。今やっていることからどう進化させていくかは、イコール時間だったりするから、青木くんがソロ・アルバムの制作にかけた10年もそうだし。ただ天に任せるとルーティンになっちゃう。そのことに意味はなくはないけど、興味が持続できる方が楽しいじゃない。そういういい意味で、自分の中にある浮気性なところはどんどん利用してね、変えていかなきゃいけないんだけど、キャパシティもひとりだけでやっていると広がらないから、人とやったりするのもすごく良い。

――完全にひとりでやり続けるのは大変ですよね。

寺田 : 言い方は悪いけれど、どうパクっていくか、みたいなところは確実にある。パクってそのまますぐに出すと炎上するのは当たり前で、それを咀嚼するのに普通は何年かかかるわけです。3年だったり10年だったり。アマチュアの時代というのは、パクって咀嚼する時代とも言える。例えば能力が認められてデビューするまで10年かかっているとするなら、その10年のうちに影響を咀嚼しているってことです。結果的にそれが自分のスタイルになっていくんだけど、一回プロとして仕事をはじめちゃうと自転車操業になってしまうから、他人や他のものの影響を咀嚼する時間がなくなっちゃう。そうすると、自分自身にある貯金をパクって咀嚼していくことになるから、疲弊していくよね。

青木 : うんうん。なるほど。

寺田 : つまり、同じことをやり続ける覚悟してないと、どんどん辛くなっていっちゃう。そこはだから、合間にどれだけサボれるのかもじつは重要になってくるし、別のやり方を考えるとか敢えて切り替えることで、それが10年後に形になってくる。そういう気が長い形でやっていくしかないよね。若いときに描きすぎると、その繰り返しを厭わない強さも持たないといけないので。それは絵の修練とは別の強さが必要になる。

――ある程度キャリアを重ねると徐々に作業スピードが上がっていく感じがしますが、対して咀嚼の時間をきっちり取らないといけないわけですね。

寺田 : うん。ある程度うまく成功して余裕が出来てくると、そういう時間を取っていくわけです。そうすると創作物の発表する期間がどんどん延びていくって人がいるのはすごくよくわかるし、当然なんです。

――青木さんも、downyもあってunkieもあってソロもあります。音楽家として経験を積んできたからこそ、複数のプロジェクトを動かせるようになった感覚はありますか?

青木 : 僕の場合、好きと思える音楽性だけで生きてきたから。結局は自分から滲み出るものこそがすべてなので。それを敢えて(ユニットによって)実験的に差別化する楽しみ方をしているだけであって。情熱的でロックなunkieがあり、対照的に無機質なdownyがあって。ソロはさらに踏み込んで自分の心の奥底を映しだしてみたりと。ひねくれた自分を楽しんでいるんですね。それらをすべて同時に、と言われたらゾッとしますが(笑)。ソロをリリースしてくれたVirgin Babylon Recordsには感謝しています。仲間の存在はありがたく思いますね。今でこそ世の中は自由な音楽性に溢れていますけど、昔は窮屈に感じることもありました。それは絵においてそうだし、何をどうして良いのかわからなかった。

――それは長い時間をかけることで理解者が増えていったと。

青木 : 僕が一度音楽諦めたのも、自分の居場所が見えなかったからです。絵の方に目を向けても寺田さんがいるし(笑)。

寺田 : もう良いよ褒めなくても(笑)。

青木 : でも、それは寺田さんの言う咀嚼の時間だったのかもしれないです。

絵を描いて生きている、ということだけが大事だった(寺田)
絵もギターもようやく、自分なりのやり方が見えてきた(青木)

――寺田さんは、青木さんのように自身の居場所やポジションについて考えたことはありますか?

寺田 : ポジションかぁ。青木くんと違うところと言えば、イラストレーションというのは仕事ありきなんで。依頼があってそこに自分を合わせていくという。アーティストじゃないから、自分が言いたいこともそんなになくて。絵を描くという行為自体が拠り所なんです。女性誌にある星占いのカットでもなんでも、それで生きていければいいやと思っていたから。純粋に絵を描いていて、その結果として自分に向いた仕事に巡り合ってきたから、単純に運がいいっていうのはある。だから、ポジション的なことは考えてなくて、絵を描いて生きている、ということだけが大事だった。それは学生のときから仕事をやっていたので、達成されていたわけですよ。音楽家に例えていうなら、スタジオ・ミュージシャンでも路上演奏でもなんでも良いけど、そこで生活できれば良いってところだから。最低限でかまわない。

――自分が有名になりたいという欲求ではなくて、絵を描きたいという欲求が最優先だった。

寺田 : そうそう。それしかないしね。だからたまたまですよ。仕事では要望とすり合わせいく必要はあるから、その中で感覚が合う人がいると、さっき青木くんが言ってた「仲間が増える」みたいなもので、あの人にはあれを描かせれば間違いない、という良い循環が生まれていく。それをやるためには、一個一個の仕事に手を抜かないとか、そういう基本的なことでしかなかったりする。

――例えば自分の意志だけで描いていくアーティスト的な活動だけに絞る、みたいな気持ちはないのでしょうか。

寺田 : 依頼される仕事も自分のための絵もどっちも好きなんでね。あと、根っこは漫画家なんで、絵を描くことが根源にあるけど、表現形態としては漫画が好き。漫画があってその周りにイラストがある感じです。だから、常に行き先のない川に流されている感じですよ。流されていながら、自分の行きたい方向だけは常に見ている。その方向さえブレないと、意外とうまくいくんです。そこを忘れていくと、ただただ流されるだけになって、自分が行きたくなかった場所に辿り着いたりするんです。

――青木さんとしては、自分の根っことしてギタリストというのが大きいんですか?

青木 : いや、それは全然ないですね。10年前のdownyの活動休止をきっかけに、ギターから一度離れようとも考えました。全く新しい方法で自分を打ち出せないか模索していたんです。でも、その頃にサポートやレコーディングの依頼が続いて、どうしてもギターを離せなくて。それから間もなくunkie結成となり、結果的にズルズルと。僕にとってギターに距離を置くというのは建設的な考えと捉えていて、選択肢の修正を重ねながら過渡期を乗り越えるつもりでいたんです。当時は自分に満足していなかったですし、何かやれるという根拠のない自信があったので。

――音楽だけをやろうという方向性は決まっていたんですか?

青木 : いえ、何か自分を表現ができればという感じですね。その模索していた時期に絵を描きはじめているんですけど、何というか、見えない大きな力が動き出す感覚でした。何年も絵を描いてなかったのでひどい出来でしたけどね。時間を経て、絵もギターもようやく、自分なりのやり方が見えてきましたね。今回のソロ・アルバムの制作はその契機になりました。何が足りなくて何で補えばいいのか見えるんです。

寺田 : かっこいいなー(笑)。

後編 >

PROFILE
寺田克也
漫画家、イラストレーター。ゲームやアニメ、実写映画などのキャラクターデザイン、小説の装丁画や挿絵など多くの作品に参加。代表作として、漫画『西遊奇伝大猿王』、ゲーム『バーチャファイター』キャラデザイン、画集『寺田克也全部』、『寺田克也ココ10年』がある。最近は主にiPadPro13インチで作画を行う。
青木裕
音楽家。downy、unkieのギタリスト。イラストレーターとしても活動しており、2016年には初の個展となる「青木裕展」を開催。2017年1月、Virgin Babylon Recordsより、すべてギターのみで構築した制作期間10年のソロ・アルバム『Lost in Forest』をリリースした。模型制作もプロ級。